最近、いくつかのクライアントから、採用後に精神疾患を持っていたことが発覚し、入社後数カ月で疾患が悪化して欠勤しているのでどう対応したらよいのかわからないと言った相談や、採用してみたものの現場仕事に就かせることができない持病を持っていたために、配置に困っているといった相談を受けました。採用からの経緯をお聞きしていくと、採用面接の際に健康上の問題は面接時に聞いてはいけないという思い込みから必要な質問をしていなかったために採用後の対応に苦慮していました。では、採用面接や採用審査において健康に関する質問や健康診断書の提出を求めてよいのでしょうか。
職業安定法第 5 条の 4 には「社員を募集するにあたって、業務の目的の達成に必要な範囲内で個人情報を収集することができる」と定められており、応募者の適性と職務遂行能力を判断するため、合理的かつ客観的に必要性が認められる範囲において健康状態を確認することについては問題ないと考えられます。
また、厚生労働省作成の「公正な採用選考をめざして」において、採用選考時の健康診断は、「その必要性を慎重に検討し、それが応募者の適性と能力を判断する上で合理的かつ客観的に必要である場合を除いて実施しないようにお願いします」、「真に必要な場合であっても、応募者に対して検査内容とその必要性についてあらかじめ十分な説明を行ったうえで実施することが求められます」と記載されていますが、上記の健康状態の確認と同様に合理的かつ客観的に必要があり、個人情報に配慮しながら実施をするのであれば、問題ないと考えられます。
近年増加しているメンタル面の病歴は、健康診断の結果の提出させることによって確認できるものでもありません。また採用面接等で直接尋ねにくい上、尋ねた内容が記録もされません。また誤解を避ける意味でも口頭での聴取より書面等(※健康情報提供依頼書)を活用し、本人から病歴を申告してもらう形をとるとよいでしょう。健康状態の確認の際には、以下の点を注意しながら、情報収集をしてください。
・個人情報になるため、応募者に利用目的を通知したうえで、必要な範囲内において情報収集すること。
・取得した情報は採用選考以外には利用したりしないこと。
・HIVやB型肝炎などの感染症の情報は原則的には聞かないこと。
日本においては、「採用する自由はありますが、解雇する自由はありません」ので、事前に採用選考する際に必要となる応募者の健康情報が何なのか、どのように取得するのかなどを検討したうえで、情報収集をすれば、採用後の健康問題についてのトラブルは避けられる可能性が高くなるでしょう。
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同じく採用に関する事例です。正社員を採用したいものの、以前の採用した際にトラブルがあり、採用にとても慎重になっています。そこで、正社員として採用する前に6か月の有期雇用契約として入社してもらい、問題がなければ正社員に転換してもらうという運用をしていますが、問題はあるのでしょうか。
労働者の適性を評価・判断するために設けられた雇用計画の期間は、有期契約の存続期間ではなく、試用期間と判断されます。(最高裁平成2年6月5日神戸弘陵学園事件)
つまり、採用トラブルを回避するために、お試し目的で形式的に有期契約を締結したとしても、実質的に最初から無期契約が開始しており、有期契約の期間は試用期間として判断されることになります。万一、使用者が有期契約期間満了で契約を終了させようとしたとしても、解雇する場合と同様に客観的合理的な理由と社会通念上相当な理由が必要になります。
・有期契約締結時に口頭で「今回の契約期間中に評価して、正社員とするかどうか判断します」、「特に問題がなかったら、次の契約時に正社員にします」などと説明している場合
・有期雇用契約書において、「次回契約更新する場合は正社員とする」、「更新時に正社員とするかどうか判断する」といった記載がある場合
・採用募集のホームページや採用サイトに、正社員募集としていながら、「最初の6か月間は有期契約」と記載している場合
上記のようなケースはいずれの場合も、実質的に有期契約期間ではありますが「試用目的」であることが明らかですので、試用期間として判断される可能性が高いでしょう。
リスクを回避しながら、優秀な人材を採用したいという採用する側の本音は非常に理解できますが、売り手市場においては、リスク回避として有期労働契約による人材の募集や労働条件の提示は、応募者からすると労働条件が悪いとしか判断されませんので、応募者が集まらないだけでなく、本来採用したい優秀な人材からの応募がない又は数が減ると考えられます。
優秀な人材を採用したいのであれば、有期労働契約という方法でリスク回避するのではなく、正社員募集をして採用面接や適性検査において慎重に判断したうえで、少しでも疑問や引っかかることがあるのであれば、再度面接する、問い合わせするなど、採用する側が納得するまで適性判断をしたうえで採用することにより、リスク回避するべきでしょう。
改めて自社の採用したい人物像を明確にして、その人に伝わる募集内容、募集方法、選考方法などを点検してください。
弊所に4月1日より新たに岩本が入所致しました。社会保険労務士を目指して、現在試験の勉強をしながら、少しずつ実務を覚えているところです。前職においては、採用に関連する業務を9年経験しておりましたので、人材募集や採用に関するアドバイスをクライアントの皆様にも還元できることを期待しております。
【岩本よりひと言】
この度、4月よりウィズロムへ入所いたしました岩本と申します。異なる業界からの転職となりますので、実務を積み重ねながら、専門知識を少しずつ増やしているところであります。
至らぬ点もあるかと思いますが、1 日でも早く皆様の伴走者としてお役に立てるよう精進してまいります。どうぞよろしくお願い致します
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