東京都では、カスタマーハラスメント(カスハラ)が深刻な社会問題となっており、特にサービス業従事者の約半数が顧客からの暴言や不当な要求、さらには身体的暴力を経験しているとの調査結果があります。この状況を受け、東京都は2024年10月に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を制定し、2025年4月1日から施行される予定です。この条例では、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」と明記され、カスハラ行為の禁止が明文化されています。罰則規定は設けられていませんが、条例の制定によりカスハラの違法性が明確化され、被害の減少が期待されています。さらに、東京都産業労働局は「カスタマーハラスメント防止対策に関する検討部会」を設置し、カスハラ防止に向けた具体的な対策やガイドラインの策定を進めています。これらの取り組みにより、都内の事業者や従業員がカスハラに適切に対応できる環境の整備が進められています。
現在、カスハラについては東京都の条例を除き、法律等でのパワハラ、セクハラ及びマタハラ等のような防止措置義務が企業に義務付けされているわけではありません。しかし、企業がカスタマーハラスメント対策を講ずる主な必要性は以下のものが考えられます。
① 会社は従業員を守る必要がある
企業は、従業員の安全に配慮する義務が法的にあります。したがって、企業がカスハラを放置し、結果として従業員が傷つくことになると、安全配慮義務違反を理由として、損害賠償責任を負うことになります。
② 顧客の利益を害する
カスハラが蔓延すると、怒鳴り声が聞こえ、怒鳴っている顧客に従業員が複数人で対応するといったような状況になります。結果として、例えば店舗等では、他の顧客が不愉快な思いをして、かつ自分たちの対応をしてもらえなくなり、カスハラをしていない他の顧客に迷惑をかけることになってしまいます。
③ 企業経営への支障が生じる
他の顧客に迷惑をかけることで顧客離れが起きます。また、カスハラを理由として退職する人も出てきます。顧客折衝のある仕事のついている人の38%が「仕事を辞めたいと思った」、45%が「出勤が憂うつになった」(「職場のハラスメントについての定量調査」パーソル総合研究所)などの調査もあり、人材不足の中で従業員が退職することによる業務の停滞や金銭的な損失が発生してしまいます。
④ レピュテーションリスク
レピュテーションリスクとは、企業や組織の評判や信頼性が損なわれるリスクを指します。このリスクは、企業の行動や対応、発言、あるいは外部要因によって発生し、業績や経営に深刻な影響を与える可能性があります。カスタマーハラスメントにおいては、不適切な対応やクレーム対応の放置などにより評判が悪化することなどが考えられます。
東京都条例では、カスハラの定義を ❶顧客等から就業者に対し、❷その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、❸就業環境を害するもの としており、指針ではそれぞれの考え方を具体的に示しています。代表的な行為類型にも触れ、例えば「就業者への土下座の要求」や「就業者を拘束する行動」などの行為は刑法にも触れる可能性があると説明しています。
また、事業者に求められる取組みとして、以下の対応が参考となります。
① カスハラ対策の基本方針・基本姿勢の明確化と周知
② カスハラを行ってはならない旨の方針の明確化と周知
③ 相談窓口の設置
④ 適切な相談対応の実施
⑤ 相談者のプライバシー保護に必要な措置を講じて就業者に周知
⑥ 相談を理由とした不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め周知
⑦ 現場での初期対応の方法や手順の作成
⑧ 内部手続(報告・相談、指示・助言)の方法や手順の作成
⑨ 事実関係の正確な確認と事案への対応
⑩ 就業者の安全の確保
⑪ 就業者の精神面及び身体面への配慮
⑫ 就業者への教育・研修等
⑬ 再発防止に向けた取組み
それぞれ対応のポイントを示しています。
【東京都「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」】
厚生労働省においてもカスタマーハラスメントへの対策を進めるためのマニュアル、リーフレット、ポスター等が作成されていますので是非ご活用ください。
「あかるい職場応援団」
昨年よりハラスメント研修のご依頼が増えています。パワハラをメインとしたハラスメント対策の研修が多いのですが、医療機関ではカスタマーハラスメントの中でも「ペイハラ」(ペイシェントハラスメント)が深刻な問題となっています。患者やその家族が医師や看護師等の医療従事者に暴力や暴言を浴びせるなどの問題に頭を悩ませているのです。
元来日本では「お客様は神様」と言った考え方がビジネスで一般的に考えられてきた価値観ですが、お客様も従業員も対等であって、相手をリスペクトする意識が最近の価値観であり、変化してきているように感じます。働いている方がおられるのでサービスを受けられるのであって、当たり前ではないということ、サービスを提供していただいた方への感謝を忘れないようにしたいですね。
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