事務所便り

令和6年11月号

管理職になったら残業代は支払わなくてよい?

 先日、創業50年以上の歴史ある会社から就業規則の見直し依頼がありました。いろいろと問題点はありましたが、特に気になったのは、管理職になったら残業代を支払わなくてもよいと考えて、就業規則で「課長以上には第●条の時間外労働は適用しない。」と規定していた点でした。

■ 「管理職」と「管理監督者」の違いを理解していない

 「管理職」とは、会社等が組織のマネジメントを担うために、例えば部長、課長、主任、店長といった役職を与えて責任と権限を与えています。
 一方で「管理監督者」とは、労働基準法第41条第2項に定める「労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されない者」です。ちなみに深夜労働や有給休暇は適用されます。
 つまり、会社の組織として与えている管理職と労働基準法で定めている管理監督者とは定義や考えが異なります。

■ 「管理監督者」とは具体的にどのような者が対象となるのか

 労働基準法第41条第2項に定める「管理監督者」とは、具体的には以下のような要件を満たしていなければ該当しません。

① 経営者と一体的な立場で仕事をしている
 経営者に代わって同じ立場で仕事をし、その重要性や特殊性から労働時間等の制限を受けないなど、経営者から管理権や指揮命令権の一定の権限を委任されている必要があります。具体的には、会社の重要な経営会議に参加し、一定の人事権が与えられているかなどが要件とされています。
② 出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない
 時を選ばず経営上の判断や対応を求められることがあるため、勤務時間の制約がなく出退勤時間も自らの裁量に任されており、一般の従業員のように遅刻、早退した場合に賃金や賞与を減額するような場合は、管理監督者とは言えません。
③ その地位にふさわしい待遇がなされている
 職務の重要性から、地位、賃金その他の待遇において一般の社員と比較して相応の待遇がなされていなければなりません。時間の制約もなく重要な仕事をしているのだから、一般の社員と同じ程度では管理監督者としてのふさわしい待遇とは言えないと考えてよいでしょう。

■ 「管理職」=「管理監督者」とした場合の問題

 会社が管理職を管理監督者とした場合、管理監督者としての要件を満たしていれば問題ないのですが、要件を満たしていないにもかかわらず、管理職=管理監督者とした場合、未払の時間外労働及び未払の休日労働が発生します。
 中小零細企業においては、社労士の感覚としては「管理監督者」の要件に該当する方はほとんどいないように感じます。「管理監督者」の要件に該当する方はほとんど役員くらいでしょう。

■  問題が顕在化した場合

 問題が顕在化する事例は、退職後に時効にかからない3年分の未払の時間外労働及び未払の休日労働分を支払うよう弁護士を通じて内容証明が送付されてくるような場合です。管理職として会社が処遇しているわけですから、賃金もそれなりに厚遇されているような場合でも「管理監督者」と判断されなければ、多額の未払賃金が発生します。
 また、要件を満たしていないにもかかわらず管理監督者としている会社では、他の管理職についても、同様の運用しているため、一人の未払賃金の問題が会社全体の未払賃金の問題に発展する可能性があり、問題が顕在化した場合、会社経営に深刻なダメージを与えることになります。場合によっては、倒産するような事態にもなりかねません。
 平成20年に日本マクドナルドの直営店の店長が管理監督者として残業代を支払わないのは違法だとして訴えた事件は、マスコミでも注目を集め、当時「名ばかり管理職」という言葉として世間でも知られることになりました。判決内容は、755万円の支払いを命じる判決で「管理監督者」であることを否定しました。(当時は賃金債権が2年、現在は3年となっておりますので、現在であればさらに支払額が増えることになります。)
 「アルバイトの採用や昇給等、労務管理の一端を担っているものの、労務管理に関して経営者と一体的な立場にあったとは言い難く、一定範囲の支出などについて決裁権限はあるが、その権限は店舗内の事項に限られていた。勤務体制上の必要性から長時間労働を余儀なくされ、平均年収は人事考課の結果によっては下の職位の平均値を下回る場合もあった。」(日本マクドナルド事件 東京地裁平成20年1月28日)

■ 経営に都合の良い制度はない

管理監督者として扱う場合は、会社は該当要件を確認したうえで適用するにしても、リスクを理解したうえで、運用することが重要です。
 管理職だから働かせ放題と考えて運用していると大きなリスクを負うことを自覚する必要があります。
 管理監督者の判断は非常に難しいため、弁護士や社労士など専門家にご相談されることをお勧めします。

弊所よりひと言

 令和6年9月号でもご報告しました本年8月25日実施の社会保険労務士試験の結果、弊所から受験した藤井と岩本が2人とも合格致しました。両名とも弊所に入所以来、仕事と勉強の両立をしながら4回目の受験で見事合格を勝ち取りました。それぞれから一言ご挨拶させていただきます。
(藤井)
 皆様のお力添えをいただき、令和6年度社会保険労務士試験に合格することができました。
ようやくスタートラインに立つことができましたので、顧問先の皆様のお役に立てるよう、より一層精進してまいります。今後ともどうぞよろしくお願いします。
(岩本)
 平素より大変お世話になっております。この度、令和6年度社会保険労務士試験に合格することができました。勉強と仕事を両立することができたのは、ひとえに事務所の皆さん、そして家族のサポートがあったからだと強く感じています。今後は、自分が学んだ知識や経験をクライアントの皆様に少しでも還元できるよう精進して参ります。至らない点も多々あるかと思いますが、引き続き、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

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