事務所便り

令和6年10月号

割増賃金は正しく計算して支払われていますか。

 先日、弊所に労務トラブルで相談があったのですが、従業員から時間外労働に対する割増賃金の計算が正しくないから不足分を支払ってほしいという事案でした。労務トラブルに発展せずとも、新規の顧問先等の割増賃金計算方法を確認すると、計算が間違っているケースはかなりの割合(半分以上くらい)であります。改めて割増賃金の計算についてご説明いたします。

■ 割増賃金とは

 労働者が「法定労働時間を超えて労働した場合」、「法定休日に労働した場合」、「深夜時間帯に労働した場合」会社に対して通常よりも多い賃金の支払いを義務付けるものです。(労働基準法第37条)これを「割増賃金」と言い、いわゆる「残業手当」、「休日手当」及び「深夜手当」等がそれにあたります。
 なお、法定労働時間とは原則1日8時間、週40時間、法定休日とは原則1週間に1日の休日、深夜労働とは22時から翌日5時までの時間ですので、「法定」と「所定」とは区別して考える必要があります。(例:1日7時間30分が所定労働時間で1時間残業した場合、30分は所定超法定内残業となり、30分は法定超残業となります。)

■ 割増賃金の計算方法

 割増賃金の金額は以下の式で算出します。

   割増賃金額=1時間当たりの賃金額×時間外労働(休日労働、深夜労働)の各時間数×割増賃金率

 割増賃金率とは、時間外労働の場合(1+0.25)以上、休日労働(1+0.35)以上、深夜労働0.25以上となります。時間外労働が60時間を超える場合は(1+0.5)以上が必要となります。

 なお、「1時間当たりの賃金額」は、月給制の場合は以下のように計算します。
 
   月の所定賃金額÷1か月の平均所定労働時間

「1時間当たりの賃金額」は、所定労働時間に対して支払われる賃金が対象となります。ただし、以下の①~⑦は労働と直接的な関係が薄く、個人的な事情に基づいて支給されている手当です。そのため「1時間当たりの賃金額」を計算する際には控除することができます。
    ① 家族手当
    ② 通勤手当      
    ③ 別居手当  
    ④ 子女教育手当     
    ⑤ 住宅手当      
    ⑥ 臨時に支払われた賃金  
    ⑦ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

 ①~⑦以外の賃金は全て算入しなければなりません。また、①~⑤の手当については、名称にかかわらず、その手当の支給要件によって除外できるかどうか判断されます。

■ 割増賃金の計算から控除できる手当例

 ①家族手当…… 扶養家族の人数又はこれを基礎とする家族手当額を基準とした手当
  ※扶養家族に関係なく、例えば一律に1万円支給している場合は除外できません。
 
 ②通勤手当…… 通勤距離又は通勤に要する実際費用に応じて支給される手当
  ※通勤にかかる費用や距離に関係なく、例えば1日500円支給するような場合は除外できません。

 ③住宅手当…… 住宅に要する費用に応じて定率を乗じたり、段階的に算定される手当
  ※例えば住宅の形態ごとに一律で賃貸住宅者2万円、持家居住者1万円支給するような場合は除外できません。

■ 割増賃金の計算間違い例

 割増賃金の計算間違いの多い事例は以下のようなケースです。
   1. 「1時間当たりの賃金額」に算入すべき手当を入れていない
 例えば、役職手当、食事手当、皆勤手当など本来は「1時間当たりの賃金額」を計算する際に算入しなければならないのに除外している。
   2. 1か月平均所定労働時間が間違っている
 月給制の場合、「1年間所定労働時間÷12」で計算されていない。

■ 歩合制に割増賃金は必要?

 営業職等に毎月の売上に応じて歩合給を支給しており、法定労働時間を超えて労働していた場合に割増賃金が必要ではないと思っておられる方は多いようですが、実は歩合給に対しても割増賃金は必要です。以下の計算方法となりますので、これまで説明した割増賃金の計算方法とは異なります。
 
  賃金計算期間における歩合給÷総労働時間×0.25×時間外労働の時間数
※歩合給については、時間当たりの賃金は歩合給ですでに支払われているため、加算すべき割増分の2割5分のみ支払うことになります。

 割増賃金を正しく計算するためには、労働基準法等の正しい知識が不可欠です。なお未払賃金があった場合は、労働基準法違反になる可能性及び遡って支払いを求められることがありますので、自主点検することや不明な場合は社労士等に相談することがトラブル防止には必須です。

弊所よりひと言

 先日、ハラスメントセミナーの講師をさせていただく機会を頂きました。ハラスメントといっても、セクハラ、パワハラ、マタハラなどさまざまですが、最近の調査では職場で問題となっている第1位は「パワハラ」で第2位は「カスハラ」です。
 ハラスメントは従業員の退職や経済的損失など会社にとっても対応しないとマイナス面が多いです。
 パワハラという言葉は知らない人はいないのにもかかわらず、一向に減っていません。パワハラをした人の多くは、パワハラをしている認識がないようです。相手の立場や状況を考えることなく、一方的な言動をしてしまうことが要因ですので、他人とのコミュニケーションの取り方については立場や価値観の違いについて認識し、相手を尊重したコミュニケーションを図ることが解決方法であると思います。是非、皆さんの職場でもハラスメントのない職場づくりを目指してほしいものです。

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