残業時間の上限規制とは
前回でも触れましたように政府が進める「残業時間の上限規制案」について3月14日労使の両トップが受け入れる意向を表明したことにより法制化に進むことになるようです。ただニュース等では「上限100時間」という言葉だけが一人歩きしている印象があります。そこでこの「上限100時間」について考えてみたいと思います。
■これまでと何が変わるのか・・
実は大企業の中には残業の上限を例えば年間「1,200時間」(月100時間)に設定していることも少なくありません。残業時間を少なく見積もって法違反を犯してしまう事態を避けるというコンプライアンスを重視しているからです。
このように現状では残業の上限時間が法令にて明確に規定されていませんので労使の合意さえあれば際限なく残業時間を設定することが可能です。そこで本案では法律にて残業の上限時間を明確にし、違反したものを罰することができるようになります。つまりコンプライアンスを重視する特に大企業は対応を迫られることになります。菅義偉官房長官が「歴史的大改革」と評価した理由がこれにあたると思われます。
※現状の基準は「労働省告示」にすぎず法的拘束力まではありません。
■「上限100時間未満」の意味
現在の法律では労使の協定さえあれば「無制限」の残業が可能な状態でもあるのです。
もちろん毎月100時間未満の残業が可能ではなく次のような要件が満たす必要があります。
・ 年間720時間(月平均60時間)まで
・ 月45時間を超えられるのは6カ月まで等・・・
■健康保全のために・・
本案について過労死遺族の方の中で批判の声が上がったことはあたりまえとも言えるかと思います。過労死ラインとされる月間80時間等の基準を超える残業時間を国が認めることにもなるからです。もちろん現状でも行政指導の対象となっていますので身体に与える影響を考えますとなるべく残業時間を減らすことが求められます。また長時間労働に目がいきがちですが過剰なノルマ・パワハラ等も過労死自殺の大きな要因となっていることも忘れてはならないと思います。
■最後に・・・
法律にて残業規制を設けることはたしかに大きな1歩かもしれません。ただ現状において36協定の届出すら実施できていない中小企業にとってはこの法律が効果を発揮するかは難しく感じます。しかも建設業のような元請け・下請けの構造という長時間労働に陥る仕組みとなっていることも問題としてあります。また残業規制による対応として大企業が人材確保に動く可能性もあり、それにともない中小企業はさらなる人材不足に陥ることも考えられます。結局のところ1企業の問題ではなく根本的に社会全体、業界全体において「働き方改革」を行うことが必然ではないでしょうか。
社会保険労務士 岡本 芳幸
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